基礎代謝量と必要カロリーの正しい読み方
ハリス・ベネディクトの式は、日本人女性の基礎代謝を1日あたり平均150kcal高く見積もります。日本人成人365名の実測値と比べた研究の数字です。式を選ぶときにまず確かめるべきなのは、その式が誰を対象に作られたかです。
この計算機が出す2つの数字
上の数字は基礎代謝量(BMR)で、体を動かさなくても心臓や呼吸、体温維持に使われるエネルギーです。下の数字は1日の総エネルギー消費量(TDEE)で、基礎代謝量に身体活動レベルを掛けただけの値です。
厳密にいうと、これらの推定式が予測しているのは基礎代謝量そのものではなく安静時代謝量(RMR)です。本来の基礎代謝量は、前夜から絶食し、室温を管理した部屋で横になった状態で測る値で、安静時代謝量はそれより数パーセント高く出ます。使い方が変わるわけではありませんが、表示されている値が実測の基礎代謝と同じ条件の値ではないことは知っておいてください。
目標別の表の数値はすべて下の数字を基準にしています。基礎代謝量に±10%、±20%を掛けているわけではありません。
国立健康・栄養研究所の式が日本人向けである理由
国立健康・栄養研究所の式(Ganpuleらの式、2007年)は、厚生労働省の日本人の食事摂取基準(2020年版)の表4に基礎代謝量の主な推定式として掲載されている式です。形は(0.0481×体重 + 0.0234×身長 − 0.0138×年齢 − 性別係数)× 1,000 ÷ 4.186 で、性別係数は男性0.4235、女性0.9708です。日本人男性71名・女性66名のデータから作られ、20〜74歳の集団で作成、18〜79歳の集団で妥当性が確認されています。
厚生労働省は同じ資料で、この式は幅広い年齢層で比較的妥当性が高い一方、ハリス・ベネディクトの式は全体に過大評価する傾向があり、特に女性では全年齢層で、男性では20〜49歳で顕著だと述べています。
もうひとつ実用的な利点があります。厚労省が示す体重当たりの基礎代謝基準値は、肥満者では過大に、やせ型では過小に見積もることが知られています。これに対し国立健康・栄養研究所の式はおよそBMI30までは体重による系統的な誤差が認められないため、BMI25〜29.9の人にも使えるとされています。
他の3つの式と、実測値との差
ミフリン・セントジョール(1990年)は19〜78歳の健康な成人498名の安静時代謝量を間接熱量測定で測って作られた式で、欧米の一般成人では最も精度が高いと評価されています。ただし対象は欧米人の集団です。
ハリス・ベネディクトには注意点があります。この計算機が使っている係数は1919年の原著ではなく、1984年にRozaとShizgalが回帰分析をやり直した改訂版です(男性 88.362 + 4.799×身長 + 13.397×体重 − 5.677×年齢)。ハリス・ベネディクトという名前で流通している式は実際には3種類あり、どれを使っているか明示しているサイトはほとんどありません。
Katch-McArdleとして知られる 370 + 21.6 × 除脂肪体重 には、その名前の論文が存在しません。この係数を提案したのはCunninghamの1991年の論文で、KatchとMcArdleは運動生理学の教科書に載せて広めた側です。この式の精度は入力した体脂肪率の精度を超えません。体重65kgの人で体脂肪率が5ポイントずれると除脂肪体重が3.25kg、推定値が約70kcal動きます。家庭用の体組成計ではこの程度の誤差が普通に出ます。逆にDEXAなどで正確に測っているなら、この式が最もよく合います。
実測との比較では差がはっきり出ます。18〜79歳の日本人成人365名の基礎代謝量をダグラスバッグ法で実測した2011年の研究では、国立健康・栄養研究所の式の誤差は男性で1日あたり+28kcal、女性で+10kcalと統計的な有意差がなく、誤差と体重の相関も見られませんでした。一方ハリス・ベネディクトは男性+99kcal、女性+150kcalの過大評価で、誤差が体重と相関していました。同じ研究でシュコフィールドの式とFAO/WHO/UNUの式も過大評価でした。
身体活動レベル1.2は事務職の値ではない
まず事実確認をひとつ。1.2 / 1.375 / 1.55 / 1.725 / 1.9 という5段階は「ハリス・ベネディクトの活動係数」と呼ばれることがありますが、ハリスとベネディクトのものではありません。二人の1918〜1919年の研究は完全に安静な状態の基礎代謝を測ったもので、活動係数を発表していません。この5段階はフィットネス業界の慣習で、これらの数値を導いた査読論文は見つかりません。
問題は一番下の段です。FAO/WHO/UNUの人間のエネルギー必要量に関する報告書は、自立生活する成人集団が長期間維持できる身体活動レベル(PAL)を約1.40〜2.40としています。平均1.21という値は、同報告書が「危機的状況で全く動けない要介護状態の人が短期間生存する場合」に挙げている水準です。同じ報告書の事務職の計算例(睡眠8時間、座位の事務作業8時間、軽い家事)はPAL 1.53になります。
日本の基準はもっと具体的です。食事摂取基準(2020年版)は18〜64歳の身体活動レベルを低い1.50、ふつう1.75、高い2.00とし、それぞれ3.0〜5.9メッツの活動が1日あたり1.65時間、2.06時間、2.53時間、仕事中の歩行が0.25時間、0.54時間、1.00時間に相当すると数値で示しています。65〜74歳では1.45 / 1.70 / 1.95、75歳以上では1.40 / 1.65です。
つまりこの計算機の最下段1.2は、日本の公式基準のどの区分にも対応しません。基礎代謝量1,568kcalの30歳男性で見ると、1.2では1,881kcal、1.5では2,351kcalで、470kcalの差になります。式を変えて動く幅は最大でも12%程度ですから、それよりはるかに大きな差です。
なお厚生労働省自身、活動レベルが「高い」人を見分けることはできても「ふつう」と「低い」を区別するのは難しいと述べています。5段階の選択肢は、実際にはない精度があるように見せてしまう点に注意してください。
7,700kcalという係数の読み方
表の右側は、1日の過不足に7を掛けて7,700で割った値です。この7,700kcal/kgは1958年のWishnofskyの論文に遡ります。脂肪組織1ポンドの約87%が脂質だという当時の前提に1gあたり約9kcalを掛けて1ポンド3,500kcalとし、それをkgに換算した数字です。
ここで3つのものが混同されがちです。純粋な中性脂肪、脂質に水分と細胞構造が混ざった実際の脂肪組織、そして体重です。7,700は脂肪組織の値であり、計算機はそれを体重の変化全体に当てはめています。
予測としての問題はもっと大きいものです。Hallの2008年の論文によれば、体重1kgを減らすのに必要なエネルギー不足量は元の体脂肪量によって変わります。約7,700kcal/kgが当てはまるのは体脂肪がおよそ30kgを超える人で、体脂肪が約25kg未満の人ではこの規則は必要な不足量を過大に見積もります。やせている人ほど、最初は計算より速く減るということです。
決定的なのは時間です。この規則は消費カロリーが永久に変わらないと仮定しますが、体重が減れば体を維持するのにも動かすのにも必要なエネルギーが減り、実際の不足量は0に近づいていきます。現実の体重曲線は緩やかになりますが、直線の規則はそうなりません。米国国立衛生研究所のNIDDKはこの規則を廃止し、動的なシミュレーター(Body Weight Planner)に置き換えました。2011年にHallらがLancetに示した代わりの目安は、1日100kJ(約24kcal)の恒久的な変化が最終的に約1kgの体重変化をもたらし、その半分に約1年、95%に約3年かかるというものです。
したがって「−0.44kg」は「最初の数週間は週あたり0.4kg程度、その後は鈍化」と読むべき数字です。4を掛けて1か月分、52を掛けて1年分を出すと必ず外れます。
どこまで信じてよいか
RozaとShizgalは、ハリス・ベネディクトの式が栄養状態の正常な人の安静時エネルギー消費量を約±14%の範囲で予測し、低栄養の患者では信頼できないと書いています。最も条件の合う組み合わせでも誤差は残ります。前述の日本人365名の研究で最も精度の高かった式でも、総誤差は1日99〜125kcalありました。維持カロリーが2,000kcalの人にとって10%は200kcal、1食分より大きい幅です。
表示される桁数は精度を意味しません。カロリーは1kcal単位、週あたりの体重変化は小数第2位まで表示されますが、どちらも誤差の範囲の内側です。
適用年齢も確認してください。ミフリンの式は19〜78歳、国立健康・栄養研究所の式は20〜74歳で作成され18〜79歳で妥当性が確認されています。そのためこの計算機は年齢を18〜79歳に限定し、範囲外では結果を表示しません。成長期の子どもには、これらの式ではなく年齢別の基準を使ってください。
組み合わせにも注意してください。身体活動レベルを最も低くして−20%を選ぶと、前述の30歳男性には1日1,505kcalと表示されますが、これは同じ画面が予測した基礎代謝量1,568kcalを下回ります。計算上そうなるというだけで、推奨値ではありません。
実務的には、維持カロリーを測定値ではなく出発点の仮説として扱うのが現実的です。推定値どおりに食べ、2〜4週間同じ条件で体重を測り、その傾向で数字を補正してください。体重が横ばいならその推定は合っていたということですし、動くなら100〜200kcal単位で調整すれば済みます。この計算機はあくまで目安の推定値であり、診断や治療の指示ではありません。持病がある場合、妊娠・授乳中の場合、大きく体重を変える予定がある場合は、医師や管理栄養士に相談してください。
推定式の比較:日本人成人365名の実測値との差(Miyakeら2011年)と、本計算機の出力例| 推定式 | 実測との差 / 出力例 |
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| 国立健康・栄養研究所の式(Ganpule) | 男性 +28±122、女性 +10±99 kcal/日(有意差なし) |
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| ハリス・ベネディクトの式 | 男性 +99±132、女性 +150±103 kcal/日(過大評価、p<0.001) |
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| シュコフィールドの式 | 男性 +155、女性 +124 kcal/日(過大評価) |
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| FAO/WHO/UNUの式 | 男性 +183、女性 +132 kcal/日(過大評価) |
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| 出力例:ミフリン・セントジョール | 30歳女性 160cm 55kg → 1,239 kcal |
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| 出力例:ハリス・ベネディクト(1984年改訂版) | 同じ条件 → 1,322 kcal |
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| 出力例:国立健康・栄養研究所の式 | 同じ条件 → 1,196 kcal |
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| 出力例:Cunningham(Katch-McArdle、体脂肪率28%) | 同じ条件 → 1,225 kcal |
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よくある質問
- 基礎代謝の計算式はどれを選べばよいですか。
- 日本人であれば国立健康・栄養研究所の式が第一候補です。厚生労働省の食事摂取基準に掲載されており、日本人成人365名の実測との差は男性+28kcal/日、女性+10kcal/日で統計的な有意差がありませんでした。DEXAなどで体脂肪率を正確に測っているならCunningham(Katch-McArdle)も有力です。いずれにせよ式による差は最大でも12%程度で、身体活動レベルの選択のほうがはるかに大きく効きます。
- ハリス・ベネディクトの式は使ってはいけませんか。
- 使えますが、日本人では高めに出ることを前提にしてください。実測との差は男性+99kcal/日、女性+150kcal/日でした。厚生労働省も、この式は全体に過大評価する傾向があり、特に女性では全年齢層で顕著だとしています。また多くのサイトが1919年の原著か1984年の改訂版かを明示していません。この計算機は1984年の改訂版です。
- デスクワーク中心ですが「ほとんど運動しない」を選んでよいですか。
- 1.2は自立生活する成人の下限(約1.40)を下回る値なので、実態には合いません。食事摂取基準の「低い(I)」は1.50で、座位中心の生活でも3.0〜5.9メッツの活動が1日1.65時間程度あることを想定しています。通勤や家事があるなら、この計算機では1.375を選び、その値を下限と考えるほうが現実に近くなります。
- 1日500kcal減らせば1週間で0.5kg減りますか。
- 最初の数週間は近い値になりますが、その後は合わなくなります。体重が減ると消費カロリーも減り、実際の不足量が小さくなるためです。米国NIDDKもこの規則を廃止し、動的モデルに置き換えました。代わりの目安は、1日約24kcalの恒久的な変化が最終的に約1kgの体重変化になり、その半分に約1年かかるというものです。
- 基礎代謝より少なく食べると早く痩せますか。
- この計算機で身体活動レベルを最も低くして−20%を選ぶと、30歳男性の例では1,505kcalと表示され、同じ画面の基礎代謝量1,568kcalを下回ります。計算上そうなるだけで推奨値ではありません。極端な低エネルギー食は除脂肪量の減少や栄養不足のリスクがあり、医学的な管理下でのみ行うべきものです。